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結論から言えばNoです。H級戦艦設計は戦時中これ以上大型艦が建造できない、
つまり設計も行われないと技術者たちのレベルが低下してしまうための自習みたい
なものです。
元々、開戦前のZ艦隊計画の最有力艦がH39、通称フリードリヒ・デア・グロッセでし
た。通説では一番艦を「フリードリヒ・デア・グロッセ」、二番艦を「グロース・ドイッチュ
ラント」と命名する予定だったとされますが、装甲艦「ドイッチュラント」を「ドイツ」と言
う意味の艦が撃沈された時の影響を考えて「リュッツオー」と改名させたほどですか
ら二番艦の「大ドイツ」なんて艦名はおそらくボツになったでしょう。
Z計画はH39級戦艦を6隻、F級戦艦(ビスマルク)2隻、D級巡洋戦艦(シャルンホル
スト)2隻、O級巡洋戦艦3隻を中心とする一大艦隊計画でしたが開戦により着工され
たH39も含め中止となりました。戦後の調査によるともし戦争がはじまっていなくとも
当時のドイツ国力ではZ計画は不可能だったとされます。
H級は前述したように技術者のプラクティスとしてその後もH41、H42、H43、H44と続
けられました。
ちなみに戦艦の装甲を造る際、必要な世界最大の大型プレス機は大和級建造のた
めドイツに発注して造られました。この話を聞くとドイツでも超大型艦が造れそうです
がさにあらず。この超大型プレス機自体、莫大な予算と時間を要する物なので大戦
中にドイツが大和級に匹敵する装甲を持った戦艦を建造するのは不可能なのです。
これは他の国でも言える事ですね。
H39 55453トン 30.0ノット 406.4mm/48.6*2*4 舷側装甲300mm
甲板装甲80+100mm
H41 62992トン 30.0ノット 420.0mm/48.6*2*4 舷側装甲300mm
甲板装甲80+120mm
H42 83268トン 32.2ノット 480.0mm/48.6*2*4 舷側装甲380mm
甲板装甲80+130mm
H43 103346トン 31.0ノット 480.0mm/48.6*2*4 舷側装甲380mm
甲板装甲 ?
H44 122047トン 30.1ノット 508.0mm/48.6*2*4 舷側装甲380mm
甲板装甲 ?
* |
上記の数値は日本における通説ですが、外国における最近の研究では大
分
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違っているようです。tackowさまに頂いた資料などによると以下のようで
す。
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計画排水量 |
計画速力 |
軸馬力 |
燃料 |
主兵装 |
舷側装甲 |
甲板装甲 |
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満載排水量 |
過負荷 |
過負荷 |
航続距離 |
口径/砲身長 |
門数 |
傾斜甲板 |
H39 |
56440mt |
30.0kn |
150000mph |
8700mt |
406.4o/48.6 |
*2*4 |
300o |
80+110o |
62600mt |
|
165000mph |
19200浬/19kn |
120o |
H41 |
68800mt |
28.8kn |
150000mph |
12000mt |
420o/48 |
*2*4 |
300o |
80+120o |
76000mt |
|
165000mph |
20000浬/19kn |
130o |
H41
改
|
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28.0kn |
150000mph |
|
420o/48 |
*2*4 |
300o |
50+150o |
79000mt |
|
165000mph |
20000浬/19kn |
150o |
H42 |
90000mt |
31.9kn |
270000mph |
|
420o/48 |
*2*4 |
320o |
60+140+
130+20o
|
98000mt |
32.2kn |
300000mph |
20000浬/19kn |
150o |
H43 |
111000mt |
30.9kn |
270000mph |
|
510o/52? |
*2*4 |
380o |
60+140+
130+20o
|
120000mt |
31.0kn |
300000mph |
20000浬/19kn |
150o |
H44 |
131000mt |
29.8kn |
270000mph |
|
510o/52? |
*2*4 |
380o |
60+140+
130+20o
|
141500mt |
30.1kn |
300000mph |
20000浬/19kn |
150o |
舷側装甲が大和級に劣っている事に注意して下さい。プレス機の影響ですね。
副武装はビスマルクと同様です。
H級の最大の特徴はディーゼル機関を採用している事です。
ヒトラーの弁護と言う訳ではありませんが、上述したとおりH44などは全く建造する
意図など無しに書かれたいわば落書きです(技術保全のための練習)。ヒトラーの意
思なぞそこには全く存在しません。ましてや、このような巨艦を建造可能なドックや船
台など存在せず、本当に建造するとしたらそこから建設しなければなりません。さら
に建造できても他に運用可能な港もなし、喫水が深すぎかつ図体が馬鹿でかいので
入れる海域も制限されます。よって全く建造不可能な仮想艦と思ったほうが良いです
よ。
それよりこれらの計画案の本当の価値は、そこら辺の仮想戦記作家が勝手に妄
想したものではなく、本当の造艦技術者が書いた本当の設計書だと云う事です。
さてここで問題です。なにゆえドイツ海軍は技術保全のためとは言え他国もしなか
ったような事をしたのでしょうか。それは第一次大戦の結果、第二帝政ドイツが崩壊
し世界最高水準のドイツ海軍設計局が連合軍によって縮小解散され、正統技術の
継承が途絶えてしまった事への恐怖にあると思われます。世界最高の戦艦を造った
ドイツが、第三帝國においては列強中最も旧式な設計思想の戦艦(ビスマルクやシ
ャルンホルスト)しか建造できなかった事実を考えれば御理解いただけると思いま
す。
余談ですが、H39に搭載予定の406.4mm/48.6口径砲は10門完成しており、1942〜
1943に海岸砲としてフランスに3門、ノルウェーに7門配備されました。
これからもイギリスの偽情報により連合軍の大反攻がノルウェーからだとヒトラーが
思い込んだ事実が裏付けされますね。
それからH級の39、41、42、43と言う数字は設計年です。
さらに余談。420mm砲搭載戦艦は第一次大戦中の第二帝政ドイツ海軍のペーパ
ープランにすでに存在します。ビスマルク規模の艦に同様の砲配置です。
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