T92軽戦車




T92軽戦車

T92軽戦車M41ウォーカーブルドック
1960年台初頭に代替するものとして、1953年開発着手されました。
この新型軽戦車に求められたのはC-130輸送機による可搬性。
すなわち積極的な空挺戦車としての運用能力でした。


T92の開発に当たって次のような新技術が組み込まれました。
1.M41以上の低シルエット化を果たすためのクレフト砲塔。
2.大直径2260.6mmものターレットリング径(M26中戦車でさえ1752.6mm)
3.半自動装填装置及び自動排莢装置付き76.2mm砲。
4.独立した車長用12.7mm機関銃キューポラと砲手用7.62mm機関銃キューポラ。
5.物資搬入や緊急脱出に最適な車体後部ハッチ(フロントエンジン採用による)
6.トーションバーにかわってトーシラスティックサスペンションの採用。


クレフト砲塔=割れ目型砲塔
砲塔の上下スペースを最も喰うのは主砲の砲尾です。
俯角すなわち砲身を下に向ける場合、
砲尾は当然上を向きますし射撃時はさらに後退してきますから
これが干渉しないために砲塔天井は高くならざる負えません。
クレフト砲塔は砲塔中心を谷間状態にし、
主砲自体を砲塔構造から独立させる事によって
この制限から開放させ砲塔シルエットの低減化を図ったものです。
80年代から90年代にかけて戦車の新形態を模索した時期に
オーバーヘッドマウント式と共に
各国で研究対象になっていたのが記憶に新しい所でしょう。



クレフト砲塔の一例:M2ブラッドレイ CVAST 
ブラッドレイに35mm自動砲を装備した実験車輌


T92軽戦車
上記ブラッドレイとは厳密には違う形態だが
クレフト砲塔のはしりと見て良いだろう
項目3の車長用・砲手用独立キューポラも見て取れる


フロントエンジン採用によって可能となった車体後部大型ハッチ。




後にメルカヴァが同様なものを採用していますが
本車はそのはしりと言えるでしょう。


トーシラスティックサスペンション。
中心軸となる金属シャフトをシリンダー状のラバースプリングで包み
これをシリンダー状金属外殻に封入したもので、
トーションバーサスペンションと違い全方向からの衝撃吸収に優れるものです。



これらの新機軸を満載したT92でしたが、
1956年11月アバディーンにて行われた試験において
様々な弱点を露呈してしまいます。
特別に設計された半自動装填装置は
旧式なM41ウォーカーブルドックの手動装填より
遅い発射速度しか発揮できませんでした。
戦車におけるこの手の装置がまだ未成熟だった事と、
たかだか76.2mm砲弾では人力の融通性の方が遥かに高かったのです。
また極端な車内空間の極小化により、
乗員や弾薬庫の配置が非常に不合理で不自由なものとなっていました。

さらにここで追い討ちをかけるような追加要求がだされます。
浮航性、すなわち水陸両用機能の付与です。
しかしながら浮航性を与えるためには
車体を大きくし浮力を高める必要があります。
これは元々、輸送機で運ぶためにできるだけコンパクトにと言う
本車の基本設計に全く反する要求です。
さすがにこの無茶な要求を織り込んだ改良型は
年内に開発を取り下げられました。

ですがすでに露呈した欠点に加え、
M41ウォーカーブルドックと全く同じ76.2mm砲では
60年代以降に配備される戦車としてはソ連戦車に対抗し難いとして
1959年にその開発を終える事となりました。
そして翌1960年には画期的な攻撃力を持つ軽戦車
ARAAV(偵察・空挺用突撃装甲車輌)
Armored Reconnaissance/Airborne Assault Vehicle 。
即ちXM551、のちのM551シェリダンの開発が始まったのです。



余談ではありますが本車における特徴の幾つかは
後のある戦車の中に見出す事ができます。
イスラエルのメルカヴァ戦車
メルカヴァが本車の影響を受けた、などと言う記述はどこにも存在しません。
ただ、余裕を持って取り組んだ場合
T92の設計もそれなりの有効性があったわけで
ひとつのなぐさめにはなるのではないでしょうか・・・



この記事は
3rd Amphibious Warfare Studies Group
Vietnam models
A Troop 4th Squadron, 12th US Cavalry,
1st Brigade 5th Infantry Division (Mechanized)
Webshots Community
Rod's WarBirds
Jed Military enthusiasts directory
LORD MPD
を参考とさせていただきました



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