巡航戦車センチネルシリーズ(オーストラリア)



2ポンド砲装備のセンチネルAC I

巡航戦車センチネルシリーズ(オーストラリア)

2003年最初のまともな記事は無難なとこでそこそこ知名度のあるこの戦車。
ACAustralian Cruiser Tankの意。

独逸侵攻によるフランス崩壊とイギリスの撤退。
この事実は今後、英国本国がオーストラリアに戦車を供給する事が
当面不可能である事に直結します。
日本との戦争が予想されていたオーストラリアにとって一大問題であり、
これによりオーストラリア独自の戦車開発計画が1940年7月考慮され始めました。
参謀本部の提出した概算は、
要求性能が重量25〜30t、時速48km/h、2ポンド砲搭載、機関銃1〜2門、装甲50o、
1941年7月には生産開始し月産70輌、総計は2000輌必要というものでした。
またオーストラリア初の戦車開発のため、
米国のM3中戦車の設計に携わったW・D・ワトソン大佐が英国から招聘されました。
彼は新戦車にはM3のギアボックスとファイナルドライブが必要だと説きます。
大佐は米国のM4シャーマン、フランスのR-35およびH-39を参考に設計し始めます。
オーストラリアの自動車産業の未発達によりディーゼルエンジンは生産できず、
米国ギバーソン空冷ディーゼルエンジンは高価すぎたため、
航空機用ワスプ空冷エンジンか、キャデラック水冷エンジン3基を
Y字に結合させた(A・F・バーストール教授提案)ものを使用する事となりました。
そして1940年末にセンチネルAC Iの開発はスタートしました。
センチネルの設計において重視されたのは生産性促進のため
できるだけオーストラリアで取得容易な部品・材料を使用すると言う事で、
これは既存の商用部品の使用も試みると言う事でした。
特にこの点に留意したセンチネルAC IIの開発も1941年7月に平行して開始されます。
しかしながらAC IIは搭載予定の米国製トラック用エンジンが
砂地での使用に制限がある事が判明し9月には早々に放棄されます。
(一説によると同エンジンが取得困難になったためとも)

AC II開発のために一時遅延していたAC Iですが
この時をもって本命である事が明白となり、開発に全力が注がれます。
またAC IIの失敗が反省点となり駆動系の問題も解決され開発は順調に進行。
1941年初頭にモックアップが完成、9月に設計終了、10月には最初の鋳造車体が、
そして1942年1月にはE1・E2・E3の試作車3輌が完成しました。
E1が走行試験用、E2が火砲試験用、E3が量産試験用でした。

AC I 見返り美人(笑)

AC I 非常にまとまりが良く、後姿も美しいです

本車は当時仏米ソのみが実用化していたクロムシリコンマンガン鋼で
鋳造成形された車体を採用していましたから
初の国産戦車としては優秀と言っても過言ではありません。
*と言うより同じ初挑戦でも圧延装甲より習得し易かったからだそうな(爆)
懸架装置は試作第1号車がM4シャーマン、
その後フランスのホチキスH-35を参考にしたと言われます。
ですからこの足回りはやや旧式でした。
AC Iの量産第一号車は1942年8月にチュローナ戦車組立工場で生産が開始されました。
チュローナ工場は米国の戦車工場を手本として建設されたもので、
ニューサウスウェールズ州鉄道によって管理されました。
また第二の戦車組立工場は、ジーロンとヴィクトリアで同時に建設され始めており、
フォード・モーター社(オーストラリア)によって管理されることになっていました。
しかし必要な数の中戦車が米国から供給され始めたため
ジーロンとヴィクトリアの工場は建設中止となり、
1943年7月生産は終了、オーストラリア初の巡航戦車センチネルAC I
訓練のためのみに使用される事となりました。
*AC Iは長命な事に1956年まで訓練用に使われたそうです。

とは言えAC Iは同時期の英国本国の戦車より先行していたため、
性能向上のため2ポンド〜6ポンド対戦車砲の搭載実験を試みます。
しかしながらこれらの砲は激闘の続くアフリカ戦線で渇望されていたため
AC Iのために供給は困難でした。
そのためより強力なパンチ力を得るために25ポンド榴弾砲が
E2試作車に搭載されウィリアムストーン・ヴィクトリアでテストが行われます。
1942年6月29日テストは成功、この25ポンド榴弾砲搭載型センチネル
車体機銃を廃止し車体前面上部装甲を整理、
AC IIIサンダーボルトと命名されましたが試作車の他、
量産型は1輌のみで本格生産には入りませんでした。


25ポンド榴弾砲装備のAC IIIサンダーボルト試作車

AC III試作車側面 AC Iより重厚な感じに

量産型AC IIIサンダーボルト
車体前面装甲が整理されています

しかしセンチネルの開発史は終わりません。
そのころ独逸重戦車に有効な打撃を与えうる英米の対戦車砲は
英国の17ポンド砲(76.2o)のみでしたが、
オーストラリア技術陣は遂にこの超強力砲の搭載まで試みます。
英国本国でも同様の開発が行われていましたが自国戦車搭載案はほとんどコケまくり、
最後にたどりついたのが米国から供与されたM4シャーマン戦車搭載案で、
これがファイアフライとして正式化された事を考えると
かなり冒険的な計画だと言う事がわかるでしょう。
もちろんオーストラリア技術陣も
センチネルは果たして17ポンド砲発射の衝撃に耐えられるのか?」
疑問に思ったらしく、その実験だけのために
E1試作車を利用し特殊な試作車を造り上げます。
それが25ポンド榴弾砲連装型AC III


25ポンド榴弾砲2門装備のAC IIIスペシャル

すげ〜ぜ、オーストラリア人! 
17ポンド砲反動実験のためにこんな戦車開発してしまうとは!
25ポンド榴弾砲2門の反動は17ポンド対戦車砲の20%増しと計算されましたから、
本車が成功すれば、問題は何も無い事になります。
1943年3月果たして実験は成功し、
この車輌を改装して17ポンド砲搭載のAC IV試作車が完成します。


17ポンド砲装備型AC IV試作車

本車の成功により、続いてAC IVが開発されます。
延長型車体と新型懸架装置を持つAC IVは、
搭載火器も17ポンド砲と25ポンド榴弾砲どちらでも搭載可能とされました。
懸架装置はトーションバーもしくはM4シャーマン後期型と同じ物を、
砲塔旋回装置もシャーマンの物を導入予定でした。
重量は約32tと若干増大しましたが接地長も増したため
接地圧はAC IIIより低くなりました。
さらにエンジンにより強力なジプシー・メジャーを予定したため
最大速度56km/hとこの時期の戦車としては申し分無いものとなりました。
ただし1943年7月のオーストラリア巡航戦車開発計画中止にともない、
AC IVの開発も完了せず終わりを迎えました。


シリーズの生産台数ですが、
E1・E2試作車に続きセンチネルは8001〜8065までのナンバーがふられ
(恐らく8001がE3)、E2試作車AC III試作車に改造。
No.8066が唯一のAC III量産型E1試作車が25ポンド連装型・17ポンド型に改造され、
さらに新型走行試験車輌が製作。これで2+65+1+1合計69輌です。


AC IVともトーションバー試験車輌とも呼ばれる車体

さて、もしセンチネルが実戦配備され日本戦車と戦っていたら?
AC I一式中戦車と、AC III三式中戦車と同等以上、
AC IIIAAC IV四式中戦車を圧倒したものと考えられます。
M4シャーマンが登場せずとも日本の苦戦は免れなかったでしょう。


最後になりましたが、結局センチネルAC Iが訓練用、AC IIが開発中止、
AC IIIIVが試作のみと実戦配備される事はなかったのですが、
どこが悪かったのでしょうか?
砲塔旋回用のモーターに不具合があって傾斜地では旋回不能とか、
駆動系に問題があったとか、冷却能力不足とか色々言われますが、
それらは解決可能な事でした。
では問題は何だったのか? 
それは国力。
連合軍の巨大兵器廠として稼動し始めたアメリカの
怒涛の如き大量生産に負けてしまったとしか言いようがありません。
センチネルは確かに素晴らしいポテンシャルを秘めてましたが、
同等の性能でより信頼性が高く交換部品の入手が容易いM4シャーマンの前では、
辺境の舞台と言えども主役に抜擢される事は有り得なかったのです。

各タイプ シリアルNo 計画数 完成数 武装 エンジン
AC IE1 -
1 2ポンド砲 V8キャデラック×3 (330hp)
走行試験車輌 6つの鋳造部品で車体を構成
AC IE2 -
1 2ポンド砲 V8キャデラック×3 (330hp)
火砲試験車輌 1体鋳造部品で車体を構成
AC IE3 8001
1 2ポンド砲 V8キャデラック×3 (330hp)
量産試作車両 1体鋳造部品で車体を構成
AC I
センチネル
8002〜
8013or8014
12or13 2ポンド砲 V8キャデラック×3 (330hp)
熱硬化処理を施していない装甲 訓練専用に
AC I
センチネル
8013or8014
〜8065
53or52 2ポンド砲 V8キャデラック×3 (330hp)
AC IA -
6ポンド砲
設計完了 製作されず
AC IB -
0 25ポンド榴弾砲 V8キャデラック×3 (330hp)
設計完了 製作されず
AC II -
0 2ポンド砲 プラット&ホイットニー
空冷400hp
製作されず
AC III
スコーピオン
-
0 25ポンド榴弾砲 プラット&ホイットニー
空冷400hp
製作されず
AC III
試作車
-
1 25ポンド榴弾砲
車体機銃廃止
ぺリエ・キャデラック×3(397hp)
ACTE2を改造した試作車1輌のみ
AC III
サンダーボルト
8066〜8265 200 1 25ポンド榴弾砲
車体機銃廃止
ぺリエ・キャデラック×3(397hp)
試作車の特徴に加え車体前面形状改良
実際にはNo.8066のみの製作に留まる
AC IIIA -
0
ぺリエ・キャデラック×3(397hp)
ターレットリング径1778mmに拡大 構想のみ
AC III
特別試作車
-
1 25ポンド榴弾砲×2 ぺリエ・キャデラック×3(397hp)
ターレットリング径1625.6mmに拡大
ACTE1を改造した試作車1輌のみ
AC IV
試作車
-
1 17ポンド砲 ぺリエ・キャデラック×3(397hp)
ターレットリング径1625.6mm
ACTE1を改造した試作車1輌のみ
25ポンド連装榴弾砲搭載車の再改造と思われる
AC IV 8266〜8775
の範囲
400 0 17ポンド砲 ぺリエ・キャデラックもしくは
ジプシー・メジャー×4(420hp)
ターレットリング径1778mmにさらに拡大
     実際には設計も完了せず
AC IVA 8266〜8775
の範囲
110 0 25ポンド榴弾砲 ぺリエ・キャデラックもしくは
ジプシー・メジャー×4(420hp)
ターレットリング径1778mmにさらに拡大
     実際には設計も完了せず
走行装置
試験車輌
- - 1 -
トーションバー等の新型サスペンション試作車輌

表を御覧いただければおわかりの通り、
厳密には「センチネル」と言えるのはAC Iのみです。
同様にAC IIIは「サンダーボルト」、
またAC II発達型のもう一つのAC IIIは「スコーピオン」、
他は愛称無しと言うのが正しいところです。

型式 AC I
センチネル
AC II AC III
サンダーボルト
AC III
特別試作車
AC IV
AC IVA
生産年 1942〜43 1942計画 1943試作
乗員数 5 5 4 4 4
重量 28.215t 28.0t 29.0t 30.0t 約32t
全長 6320mm
6320mm
6720mm
全幅 2769mm
2870mm
全高 2565mm
2560mm
地上高 390mm
履帯幅 419.1mm


前面 63.5mm/75°
63.5mm 同左 同左
側面 50.8mm/60°
50.8mm
後部 50.8mm/90°
50.8mm
上面 25.4mm/0°


上部 44.45〜63.5mm/40°
63.5mm/66°
下部 63.5mm/R
50.8mm/R

上部 44.45mm/90°
44.45mm/90°
下部 44.45mm/90°
44.45mm/90°

上部 44.45mm/70°
44.45mm/70°
下部 44.45mm/70°
44.45mm/70°
上面 22.225mm/0°
25.4?
主武装 2ポンド(40mm)
Mk.IX×1
2ポンド(40mm)
Mk.IX×1
25ポンド (87.6mm)
榴弾砲×1
25ポンド (87.6mm)
榴弾砲×2
もしくは
17ポンド(76.2mm)
対戦車砲×1
17ポンド(76.2mm)
対戦車砲×1
もしくは
25ポンド (87.6mm)
榴弾砲×1
ターレットリング径 1371.6mm
1371.6mm 1625.6mm 1778mm
弾薬数 130発 130発 120発
50〜60発(17ポンド)
副武装 ヴィッカーズ
.303(7.7mm)
機関銃×2
ヴィッカーズ
.303(7.7mm)
機関銃×2
ヴィッカーズ
.303(7.7mm)
機関銃×1
ヴィッカーズ
.303(7.7mm)
機関銃×1
ヴィッカーズ
.303(7.7mm)
機関銃×1
弾薬数 4250発 4250発 2500発
2500発
エンジン キャデラック
Mod.75
水冷V型8気筒
クローバーリーフ型
117hp×3
(330hp)
プラット&
ホイットニー
空冷
400hp
ぺリエー
キャデラック
水冷V型8気筒
×3
(397hp)
ぺリエー
キャデラック
水冷V型8気筒
×3
(397hp)
ジプシーメジャー
×4
(420hp)
懸架装置 水平渦巻きバネ
ボギー式
水平渦巻きバネ
ボギー式
水平渦巻きバネ
ボギー式
水平渦巻きバネ
ボギー式
トーションバー?
最高速度 47.96km/h
47.96km/h
56.33km/h
航続距離 177km
290km
290km
登坂力 35度
35度
超壕幅 2.4384m
2.4384m
2.4384m
超堤高 1.0668m
1.0668m
1.0668m
渡渉水深 1.0668m
1.0668m
1.0668m





この記事は
WW2 AFV PORTAL
TANKS!
Jed Military enthusiasts directory
World War II vehicles.com
AUSTRALIAN MILITARY EQUIPMENT PROFILES
The Australian Armour Web Site
Armour In Focus
Sentinel
戦車研究室
Keyのミリタリーなページ
世界の無名戦車 斎木伸生著
を参考とさせていただきました。

03/01/12





セレラ・サハリアノ快速中戦車(イタリア)

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